企業の資金調達手段としてはかなりの数が存在し、それぞれ強みや特徴などが異なります。
あまりメジャーとは言えない方法に電子記録債権(電債)というものもあり、一部の経営者には利用されているのですが、正直知名度がある方法とまでは言えないかもしれません。
電子記録債権はファクタリングと混同されることもあるようなので、この回では電子記録債権とはどのようなものか、分かりやすく解説していきます。
電子記録債権とは?
電子記録債権は平成20年に施行された電子記録債権法により創設された、新しい「債権」の概念で中小企業の資金調達の円滑化を図るために整備されたものです。
「債権」には手形や売掛債権などがあり、これらは必要に応じて換金し、事業資金として利用することもできます。
ただしそうした債権の取引では以下のようなデメリットやリスクがあります。
・手形の作成や用紙の保管にコストや手間がかかる
・盗難や紛失のリスクが伴う
・二重譲渡のリスクや架空債権のリスク
・対抗要件の具備に手間がかかる
etc
これらの問題に対処するために電子記録債権法が作られ、債権の権利譲渡などの記録を電子記録として登録できるようにし、これにより取引の安全性や透明性が確保され、上記のような問題に対応できるようになりました。
電債を取り扱うのは、主務大臣から指定を受けた電子債権記録機関であり現在は5社が指定を受けています。中でも一般社団法人全国銀行協会の100%子会社として設立された株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)は電子債権記録機関の中で最多となる494の参加金融機関が加盟しています。
イメージとしては不動産の登記に近く、債権を売った、買ったという正式な記録として取引の過程が登録されるので、先述した通り安全性、透明性が確保されます。
電子記録債権を利用したスキーム
では【でんさいねっと】を例に電子記録債権の譲渡スキームを流れに沿って確認します。
①債権の発生を記録
例えば、売掛先(債務者)がA社、発生した債権をB社が手に入れる(債権者)のであれば、その当事者情報や債権の情報がでんさいネットに登録されます。
②債権の譲渡を記録
B社(債権者・譲渡人)がC社(債権者・譲受人)に債権を譲渡するとした場合、その当事者情報や債権の情報がでんさいネットに記録されます
③債務者の口座から新たな債権者の口座に送金
債務者であるA社の口座から支払期日に引き落としがされ、新たな債権者となったC社の口座に対し、送金による売掛金の支払いがなされます。
④決済情報の記録
上記③の決済情報はA社、C社の口座を持つ金融機関からでんさいネットに登録され、支払い等の記録が残ります。
ファクタリングとは違う?
ここで、「ファクタリングに似てる?」と思った人もいるかもしれません。
ここではファクタリングとの違いを見てみましょう。
①ノンリコースではない
近年、貸金業の資格を持たないファクタリング業者が行っているファクタリングでは、売掛債権を譲渡した後に売掛先の倒産などで支払いがなされなくなった場合でも、債権を譲渡した会社は責任を負いません。
つまり売掛先から資金回収が望めなくなった場合でも、債権を買い取ったファクタリング業者がそのリスクを負うわけですが、このような取引をノンリコース取引と言います。
電債の場合はそうではなく、売掛債権を譲渡した後に債権の回収ができなくなった場合には、債権を譲渡した会社がその責任を負います(リコース取引)。
②債権を譲渡する会社の信用も問われる
ノンリコースのファクタリングでは売掛金の回収が目標になるので、審査では売掛先企業の信用が重視されます。
債権を譲渡する会社の信用はあまり重視されず、赤字があったり税金の滞納があっても基本的には利用できます。
これが電債の場合、同じ債権の譲渡ではあっても実質的には融資と同じような扱いとなるため、債権を譲渡する会社の信用も詳しく審査されます。
自社の経営状態が芳しくなく赤字が続いていて、資金調達のために売掛債権を現金化したいといったとき、ファクタリングであれば利用できる可能性が比較的高いですが、電債はその可能性が狭まります。
③取引の手間が簡略化される
ノンリコースのファクタリングでは、二社間取引であれば債権譲渡企業とファクタリング業者、三社間取引であれが債権譲渡企業とファクタリング業者および売掛先企業との間で契約を結ぶことになります。
繰り返し利用する場合はその都度契約書の作成が必要で、かなりの手間です。
電債は一度加入してしまえば個々の手続きは非常に簡単で、新たな口座の登録や設定なども不要です。
④売掛先には知られてしまう
信用面の低下を避けるために売掛先に債権譲渡の事実を知られたくない場合、ノンリコースの二社間取引を選択すればそれが可能です。
二社間取引では売掛先が取引当事者とならないので、ファクタリングの利用を知られることなく信用面に影響が出ません。
電債の場合二社間取引、三社間取引という概念がなく、仕組み上必ず売掛先企業に債権譲渡の事実が伝わります。
電債はデメリットを知ったうえで検討しよう
ここでは電債のデメリット面をまとめて確認します。
利用を考える場合はあらかじめ以下を承知の上で進めるようにしてください。
①取引先も電債に登録が必要
高いハードルになると思われるのが、売掛先の会社も電債に参加していなければ、電債のシステムを使った債権譲渡ができないということです。
あらかじめ取引先に確認し、電債に参加していることを承知できているケースはいいですが、未加入の取引先を強引に電債に参加させるのは実際問題難しいでしょう。
②自社も審査される
また上でもお話ししましたが、電債では債権を譲渡する会社の信用も審査されます。
長く赤字が続いているような会社は参加しても自社のメリットにならない可能性があります。
③手数料がかかる
電債は売掛金を支払う企業と受け取る企業双方に手数料がかかります。
金額は利用する金融機関によって違うの確認が必要です。
概ね1.5%~5%程度の手数料となる事が多いです。
まとめ
この回では電子記録債権(電債)とはどのようなものか、仕組みや利用手順などを見てきました。
電債は債権の譲渡を「電子債権記録機関」を介して行うもので、上手く活用できれば手間の軽減につながる可能性があります。
ただ取引相手も電債に参加していなければ使えないため、利用できるケースは比較的少ないのではないかと思われます。
仕組み的にも融資と比べるとどうしても複雑になってしまうので、急ぎの資金確保が必要なケースでは迅速な融資が可能な弊社ビジネスローンをぜひご検討ください。
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