会社を立ち上げてビジネスを始めようとする際、先立つ軍資金の確保には苦労することが多いでしょう。
信用も実績も少ない状態ですから、経営者としては悩ましいところです。
この回では会社設立時の資金調達手段について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

■資金調達には複数の手段、種類がある

複数の資金調達方法イメージ画像

企業の資金調達手段は複数あり、特定の手段に頼ってしまうといざという時に経営難を切り抜けるのが難しいこともあります。
経営者としては複数の資金調達法があることを理解し、できるだけ多層的な手法を組み合わせて資金確保に動けるようにしたいものです。
本章では会社設立を考える方が押さえておくべき資金調達法を見ていきますが、大きく分けて返済が必要な融資によるものと、返済が不要な助成金や補助金の類に分かれます。
同じ融資によるものでも融資元の性質が異なると返済負担などの有利不利が変わってきますし、返済不要の助成金や補助金もその種類によって対象の可否が変わってきます。
次の項からは融資部門と助成金・補助金部門に分けて、具体的な手段を見ていきます。

■融資による資金調達

融資をイメージした画像

融資による資金調達の具体的な種類について見ていきます。

①各種金融機関からの借り入れ

最も一般的で検討しやすいのが銀行など金融機関からの借り入れです。
充分な自己資金があり将来性がある事業であれば融資を受けられますが、スタートアップで信用がない状態で自己資金が少ないと難しいことも多いです。
その場合はノンバンクによる融資も検討できます。
ノンバンクは銀行よりも審査が柔軟で借りやすい反面、金利は割高になります。

②制度融資

銀行からの借り入れが難しい場合、信用保証協会を利用して保証を取り付けた上で融資の打診に臨むこともできます。
信用保証協会が中小やスタートアップ企業など信用面で弱い立場の企業に対し公的な信用を与えることで、銀行が融資しやすくする環境を作ります。
万が一融資返済ができなくなった場合は信用保証協会が返済を肩代わりしますが、それで債務が消えるわけではなく、信用保証協会を債権者として債務弁済を続けなければなりません。
また一定の保証料の支払いも必要です。

③日本政策金融公庫の施策による融資

銀行やノンバンクは民間の金融機関であり、儲けを出すことを最優先する立場であるところ、日本政策金融公庫は中小やスタートアップ企業などを資金面で支援するのが目的となる公的な金融機関です。
100%国が出資して運営される組織で、儲けを出すのではなく企業活性を促進し、国の経済発展を支えることを任務とします。
そのため金利の負担が小さく、信用面で脆弱な中小事業者や実績のないスタートアップ企業でも利用できる利点があります。
ただし公的な機関であることから実用の面では難があることも否めません。
各種の融資施策別に細かい条件が付され、これをクリアできなければ利用できませんし、数多くの資料を用意して審査に臨む必要があります。
その審査もかなり時間がかかるので、迅速な融資を必要とする場面では全く役に立ちません。
それでも、スタートアップ事業者は時間的に余裕があるケースも多いと思われ、しっかりとスケジュールを確保して臨めば有利な活用が望めます。
日本政策金融公庫は数多くの融資施策を用意していますが、以下では代表的なものを取り上げて概要を見ていきます。

1.新規開業資金

新規に会社を立ち上げる方、または事業開始から7年以内の方が利用できる融資です。
融資限度額は最大7200万円(うち運転資金は4800万円)で、利率は融資対象によって変わるものの概ね1%~2%程度に抑えられます。
利用条件としては、雇用創出を伴う事業であり、元勤めていた業種と同じ業種で起業すること、民間金融機関と日本政策金融公庫との協調融資が可能であること、産業競争力強化法に定める支援策を活用することなどが挙げられます。

2.女性、若者/シニア起業家資金

社会構造的な問題や信用面など様々な事情で起業が難しい面のある女性や若者(35歳未満)、シニア(55歳以上)の起業を支援する施策です。
最大7200万円(うち運転資金4800万円)までの融資が可能で、利率は資金の用途に応じて変動します。

3.再チャレンジ支援融資

廃業経験があって、再び事業に挑む人を資金面で支援する施策です。
再開業前だけでなく、再開業から7年以内の方も対象になります。
最大7200万円(うち運転資金4800万円)までの融資が可能で、金利は基本的に1%~2%の基準金利が適用になりますが、一定の条件を満たすケースではさらに優遇されることもあります。

4.新事業育成資金

新しい技術の活用や特色あるサービスの提供などが可能で、市場を創出・開拓できる見込みがあり、高い成長性が期待される中小事業者が対象になる施策です。
簡単な事業内容ではなくそれなりの専門性や成長性を求められることから、最大融資額は6億円と高額です。
金利も原則として0.46%~0.75%という特別に低い金利が適用になりますが、本施策を利用するには日本政策金融公庫の特別な審査に合格することや、他の企業に比べて相当の技術的優位性があることなどの条件があります。

5.新創業融資制度

高いハードルのない施策としては新創業融資制度があり、雇用創出が見込めて10分の1以上の自己資金要件を満たせば適用の可能性があるものです。
融資限度額は低めで最大3000万円(うち運転資金は1500万円)、利率はケースによって異なりますが1%~3%に収まることが多いと思われます。

■助成金や補助金

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次に助成金や補助金について見ていきます。
助成金や補助金は返済不要なので、可能であればぜひ検討しましょう。

<補助金>

補助金は経済産業省が所管する事業で、以下のような施策があります。

1.ものづくり補助金

日本の技術振興を資金面で支援するもので、“ものづくり”に関わる中小、小規模事業者が利用できます。
試作品の開発などにかかる金銭的な負担を補えるメリットがあり、具体的な施策では大きく「一般型」と「グローバル展開型」の二つに分かれます。
補助上限額は「一般型」が最大で2000万円、「グローバル展開型」は最大で3000万円の補助を受けられます。

2.小規模事業者持続化補助金

小規模事業者の販路拡大にかかる負担を補助する施策です。
当施策の実際の運用は各地の商工会議所が担当しており、条件も商工会議所ごとに異なるのが特徴です。
例として東京商工会議所を挙げると、通常枠で最大50万円、インボイス枠で最大100万円、賃金引上げ枠で最大200万円の上限となっています。

3.IT導入補助金

近年の企業活動で必須となってきたIT技術の導入に際する負担を補助する施策です。
会社設立時にあっては通常枠とデジタル化基盤導入類型を利用でき、補助上限は前者で最大450万円、後者で最大350万円となっています。

<助成金>

ここでは、独立行政法人中小企業基盤整備機構法によって定められる中小機構と都道府県などの自治体、そして金融機関等が資金を拠出する事業「地域中小企業応援ファンド事業」を取り上げます。
大きく一般的な企業が対象の地域中小企業応援ファンドと、農商工連携型地域中小企業応援ファンドに分かれ、対象者や条件などはケースによって異なります。
詳しくは以下で確認できます。
https://www.smrj.go.jp/sme/funding/regional_fund/index.html

ファンドによる拠出ですが、本施策によって受けとった資金は返済不要です。

■まとめ

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本章では会社設立時の資金調達手段について見てきました。
手を付けやすい融資による資金調達にも一般の金融機関の他に制度融資や公的機関を利用するものがあり、それぞれ使い勝手が異なります。
返済不要の補助金や助成金も可能であれば活用したいものですが、条件が細かいため利用のハードルが高いのが実情です。
金利面の有利不利だけでなく、必要な時に資金の手配が可能かどうかなどの迅速性も考慮して、場面にふさわしい資金調達法を検討できるようにしたいものです。