コロナ禍を経てグローバルな視点で見た物資の供給網の脆弱さに気づかされてから数年経ったところで今度は海外の紛争による影響も加わり、世界各国は自国のサプライチェーンに強い不安を覚える状況となっています。
アジアはまだ物理的な国家間紛争は起きていないものの、いつ起きてもおかしくない状況となっていますから、決して安心はできません。
近年各国で見直されるサプライチェーンの再構築についてはリショアリングがキーワードになりそうです。
本章では製造業復活の原動力になり得るサプライチェーンの再構築とリショアリングについて詳しく見ていきたいと思います。

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リショアリングとは

リショアリングとは

まず今回のキーワードになるリショアリングとは何かについて押さえていきます。
リショアリングは製造業において生産の拠点を海外から自国内に移す国内回帰の動きのことをいいます。
製造業では大企業になるほど海外に生産拠点を持つことが多くなりますが、これは海外の人件費の安さや地理的に製品の製造・供給がしやすいなどの事情を考えての事です。
これが近年、そのメリットを上回るリスクが生じていることから生産の拠点を日本国内に移すリショアリングが検討されることが多くなっています。

なぜリショアリングが必要なのか?

なぜリショアリングが必要なのか?

ではなぜ海外から日本国内に生産を移す必要があるのでしょうか。
主な理由を見てみましょう。

①サプライチェーンが不安定化している

海外に生産拠点を持つメリットが生かされるのは安定的な供給が保たれていればこそです。
近年これが不安定化し、持続的、安定的に供給を維持できるか不安視されることが多くなっています。
コロナのパンデミックが良い例ですが、これに加えてロシア・ウクライナ紛争やイスラエルとイスラム諸国との衝突など海外の紛争リスクも高まっています。
こうしたリスクに備えるには自国内に供給体制を移した方が安全と見る動きが強まっています。

②コスト面のメリットの希薄化

元々海外に生産拠点を持つメリットとして人件費の安さが挙げられますが、円安による影響や海外における物流コストの増加などでそのメリットが希薄化しています。
例えば紛争地域の周辺に生産拠点がある場合、本来はその地域を経由して資材や製品の移動、供給がされていたものができなくなると、遠回りして輸送しなければならないので輸送コストが大幅に増加してしまいます。
せっかく莫大な費用をかけて現地に製造拠点を整備したのに、このような事態になってしまうと意味がなくなってしまいます。
こうしたリスクはいつどこで発生するか分からないので、そもそものリスクを回避して自国に拠点を移そうという考えが強まります。

リショアリングのメリット

リショアリングのメリット

ではリショアリングを実施することでどのようなメリットを得られるか見てみます。

①自社品質の信頼性向上

海外では契約ベースで品質管理を実施するとしても、その実効性が疑われることもあります。
国内に拠点があれば品質管理の徹底が利くので、自社製品の質を維持して信頼性の向上が期待できます。
まさに「メイド・イン・ジャパン」として信頼の代名詞を売り出せます。

②コストの低減

日本国内向けに製品を配送する必要がある場合、空輸や海を隔てて輸送するにはかなりの費用がかかります。
燃料費の高騰で経常費用が高くつく他、海外では海賊やテロ組織などが商船を襲う例もあるので、防護や保険による手当てなども考慮しなくてはなりません。
国内に製造拠点があればこのような心配をする必要はなくなります。

③スピード感のある展開

目の届く国内に拠点があれば様々な意思決定を素早く実施することができます。
市場のニーズを素早く捉えて対応することが可能になり、ライバル他社との差別化も図れます。

リショアリングの課題

リショアリングの課題

リショアリングを考えるにあたっては課題もいくつかあるので簡単にはいかない側面もあります。
まず国内では人材不足が強く叫ばれているところで、必要な人材を集められるかという問題があります。
人集めには以前よりも費用がかかるようになっているので、人件費の面で問題が生じることも多いと思われます。
ソフト面だけでなくハード面でも初期投資がかかります。
工場建設やそのための土地の取得など、国内に生産拠点を持つにあたっては事前に高いハードルがあるので、そう簡単に実施できるわけではありません。
そして生産品を生み出すための原料や資材はほとんどが海外のものですので、これをすべて日本に持ってきたうえでないと生産につながりません。
海外に拠点があればこの調達が容易ですが、生産活動に先立って物資の仕入れ面で問題が生じることも多くなります。

現実的な対処法を考える

現実的な対処法を考える

日本国内に生産拠点を移すリショアリングは、理想であるとしても様々な問題もあります。
そこで現実的な問題に対処するためにリショアリングの代わりになる方策も検討されます。
例えばニアショアリングと呼ばれるものです。
これは対象の製品の最終消費地となる国、あるいはその国の近隣に生産拠点を構えるという方法です。
これにより輸送コストを押さえつつ、紛争などによる地理的影響を最小限に抑えられます。
現地の風習や言語をそのまま生かせるというメリットもあるでしょう。
また価値観を共有する国と協力してサプライチェーンを維持する「フレンドショアリング」という概念も生まれています。
我が国は自由民主主義を根幹として成り立つ国ですから、同じ価値観を持った国々と協力してサプライチェーンを維持するという考えです。
これはともすると世界全体で見たサプライチェーンの分断につながるという意見や、価値観を共有しない国々との分断を強めてしまうのではないかといった指摘もされているので、そうした問題への配慮も必要になるかもしれません。

まとめ

本章では製造業におけるサプライチェーンの再構築とリショアリングについて見てきました。
海外の紛争や地政学的なリスクなど様々な問題に対処するため、近年リショアリングの動きが強まっています。
リショアリングのメリットが強く出る企業とそうでない企業とで対応は分かれると思いますが、製造業の国内回帰の動きは経済面で注目すべきポイントの一つです。
国としてこの動きをどう捉え、支援するのかといったことにも注目が行くと思いますので、今後の潮流の一つとして認識しておきましょう。