我が国は少子高齢化を起因とした様々な問題や課題が発生しており、社会保障や経済面で心配事が噴出しています。
社会経済的リスクとしては人手不足が叫ばれて久しいですが、物流や運送業界ではかねてから「2024年問題」を巡って多くの議論がなされてきました。
2024年問題は簡単にいうと国内の物流機能が低下しモノが運べなくなるという問題なのですが、根本には労働者の働き方改革が大きく関係しています。
本章では物流・運送業界の「2024年問題」を紐解き、問題の全体像を捉えていきます。

■「2024年問題」とは一体何か?

2024年問題イメージ画像

物流業界における2024年問題とは、物流配送に関わるドライバーの労働時間の制限がかかることにより起こる様々な問題を総称したものです。
すでに労働者の働き方改革は多方面で実施されていますが、物流に関わるドライバーや医療関係者など一部の職種については、急激に状況を変えてしまうと混乱が生じることから適用が先延ばしにされていました。
その先延ばしされた期限が2024年3月までで、同年の4月からいよいよドライバーにも労働時間の制限がかかることになります。
新ルール適用後はドライバーの時間外労働時間が年間で960時間に制限されることになり、これまでよりも働ける時間が短くなります。
これにより以下のような問題が生じることになります。

■問題1「物流の停滞」

稼働停止中トラック

ドライバーが働ける時間が短くなれば、運べる荷物の量がそれだけ減ることになります。
ただでさえ現状では個人間売買が増えるなどして配送力の需要は以前よりもかなり高くなっています。
ECサイトを経由した個人の購買も消費が増えていますから、物流や配送力の需要は増えることはあっても減ることはしばらくないと考えて良いでしょう。
その需要に現状でも追い付けていないとの指摘があることに加え、ドライバーの稼働時間が減ることでさらに需要との差が広がってしまうことが懸念されています。
物流は経済を根本から支える動力であり、必要なモノが必要な時に必要な場所に届けられないといったことになれば、経済活性に支障を出すことになりかねません。

■問題2「企業利益の減少」

利益減少イメージ画像

ドライバーの稼働時間が短くなり仕事量が減れば、ドライバーを雇用する企業の利益も減少することになります。
それならばもっと多くのドライバーを雇って数の力で挽回できると考えるかもしれません。
しかし今現在でさえ人手不足でお金を出しても人が集まらない時代です。
加えて物流業界は体力的に厳しいなどの理由で求人をだしてもなかなか応募の手が上がらないことが問題になっています。
人が足りないなら雇えばいいと言えたのは一昔前のことで、今は業界にもよりますが被雇用者側の売り手市場となっているため企業の思惑通りに人を集められるわけではないのです。

■問題3「ドライバーの収入減」

収入減を表す画像

企業の利益も減ることになりますが、働く時間が減ることでドライバー自身の収入が減少することにもなります。
労働時間が減って時間に余裕ができることをメリットと考える人もいる一方、ドライバー職というのは元々「ガッツリ稼ぎたい」という層が多く働く業界ですので、収入が少ないのであればそもそもドライバーにならない、あるいは転職を考えるという層もかなりの数いるとされています。
子どもが生まれてお金が必要などの事情を抱え、たくさん働いてたくさん稼ぎたいといった層にとっては労働時間の規制は好ましいことではありません。
これにより、ドライバー職を目指す、続ける人が減り人手不足にさらに拍車がかかるのではないかと懸念されています。

■問題4「荷主の負担増」

発送荷物イメージ画像

 

より高い賃金を出さないとドライバーを集められないとなると、物流企業は人手集めにお金がかかることになります。
その負担を企業内部で賄えればいいですが、できない場合は荷主に対して配送料の値上げを要請することになるでしょう。
荷主も費用負担をできるだけ減らしたいと考えるでしょうから、別の運送業者に鞍替えを検討するかもしれません。
これが叶えばいいですが、他の運送業者も同じように考えていますから、荷主は業者鞍替えが思うようにできず、結局値上げを了承しなければならないかもしれません。
ここら辺のパワーバランスは個々のケースで違ってきますが、荷主が負担する費用が増えれば、今度は消費者にそのツケが回ってきます。

■問題5「消費者の不利益」

不満な顔した女性画像

荷主の負担する費用が増えれば、モノを購入する消費者が支払う送料の増加という形で負担が回ってくるかもしれません。
ECサイトなどでモノを買う消費者は送料についてはかなりシビアに捉えますので、送料負担が大きくなればモノを買わないという傾向が強くなるかもしれません。
これは経済発展にとって大きな足かせになります。
個人消費は日本のGDPの大半を構成する要素ですから、個人消費の伸び悩みは国全体にとってリスクになります。
さらに消費者にとってはドライバーの不足により買ったものがすぐ届かないという別の不利益も生じることになります。
2024年問題はドライバー、それを雇用する企業、荷主、消費者それぞれの立場で何らかの不利益が生じる得る問題です。

■課題への対応はどうする?

宅配貨物イメージ画像

現在、物流業界を主体として2024年問題にどう対処していくかの議論が活発になされています。
例えばトラックの予約システムの効率を上げる工夫をし、待機時間や荷待ち時間を減らす、手荷役作業を削減するなど工夫できる余地を探し改善に向けた努力がされています。
IT技術を導入し、より効率的な配送に繋げられるように各社も取り組みをみせています。
消費者に対しては再配達をできるだけ減らすように要請したり、まとめ買いを推奨するなどのアナウンスもされています。
目前に迫った2024年問題に対処するには国や企業、消費者が一緒に考えていく必要があります。

■まとめ

まとめ画像

本章では物流・運送業界の「2024年問題」を取り上げて見てきました。
ドライバーの労働時間が減ることに起因して様々な問題が起きることが懸念され、各方面でこれに対処する方策が検討されています。
一般消費者にとっても不利益が生じる可能性のある問題ですので、再配達を減らすなどできる協力はしていきたいものです。