非常に大きな影響をもたらすものであるのに、なぜか今まで大きな議論がされてこなかった「インボイス制度」ですが、制度開始まじかになってやっと議論に火が付いてきた印象です。

制度開始は目の前ですからすでに議論している暇はないのですが、正直なところ現場の事業者の方にとっては「何のためにやるの?」「ウチはどうすればいいの?」と困惑するところが大きいのではないでしょうか。

インボイス制度は個人事業主やフリーランス方面にも多大な影響があり、こちら方面の解説はよくなされているようですが、法人である中小企業も対象になるものですので、しっかりと対応を考えなくてはなりません。

本章では中小企業も対応を求められるインボイス制度について、メリットやデメリットと共に解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

■インボイス制度とは?概要と導入の背景

初心者に向けたインボイス制度の講義イメージ

インボイス制度は国が消費税の徴収に関してより正確性を持てるようにする仕組みとして考案されたものです。

制度設計の背景には、国内の消費税が8%と10%に分かれており、複数税率が存在するために正確な消費税の納付に問題が生じやすいため、正確に計算できる仕組みの構築が必要とされていたことが一つ挙げられます。

そしてもう一つは益税の問題で、現状、消費税に関しては売り上げが1000万円以下の事業者に関しては免税事業者として負担を避けることができています。

負担を避けられた分はそのまま事業者の利益になり、不公平があるということで、これを是正することも目的の一つになっています。

実務面を見ると、インボイス制度開始後においては、発注事業者側がこれまで通りに消費税の仕入税額控除を利用するためには取引相手に適格請求書の発行を求める必要が出てきます。

仕入税額控除は自社の税負担を軽減するための優遇措置で、これが利用できないと税金を多く払わなければなりません。

それを避けるために、発注者側は取引相手に適格請求書の発行を求めることになります。

■受注側の中小企業はどうすれば良いのか?

講義を受ける中小企業の従業員達のイメージ
受注側の中小企業がすでに前々年度の売り上げが1000万円を超えていて消費税課税事業者であるなら、あとは適格請求書を発行できるようにするため、適格請求書発行事業者としての登録を受ければ良いだけです。

この場合は実質的な不利益はありません。

問題は現状で消費税の免税事業者となっている場合です。

取引先の要請に応じて適格請求書を発行できるようにするには適格請求書発行事業者の登録をしなければなりませんが、登録をするかしないかは強制されるものではありませんので、自社で対応を協議しなければなりません。

適格請求書発行事業者になる場合のメリット・デメリット、反対に当該事業者にならない場合のメリット・デメリットを把握し、比較検討してどちらが望ましいか社内で検討が必要になります。

それぞれの選択肢におけるメリット・デメリットを確認していきましょう。

■適格請求書発行事業者になるメリット

適格請求書発行業者になるメリットのイメージ

まずは適格請求書発行事業者になる場合のメリット面からです。

①取引先をつなぎ留められる

発注者側は仕入税額控除を使い続けるために適格請求書発行事業者との取引を望むでしょうから、受注者側が適格請求書発行事業者の登録を受けることで、これまでと変わらず継続して取引を続けてくれることが期待できます。

②コスト削減が可能

インボイス制度下においては電子データでのやり取りも可能になるので、紙による請求書発行にかかるコストを避けることができます。

印刷にかかる紙代やインク代、郵送代などの諸費用が浮くことになります。

■適格請求書発行事業者になるデメリット

適格請求書発行事業者になるデメリットのイメージ
次にデメリット面を見ていきます。

①消費税の負担が増える

適格請求書発行事業者になる場合の大きなデメリットが消費税の負担が発生することです。

現状で免税事業者の場合は消費税課税事業者になるかどうかの判断が事業者側に任されているので自由性が有りますが、適格請求書発行事業者になった場合、強制的に消費税課税事業者にされてしまいます。

必ず消費税負担が発生するわけですから、取引先に要請されたからといって簡単に応じられるものではありません。

②会計が複雑になる

金銭的なデメリットの他に、インボイスに対応した会計処理について理解しなければならず、請求書のフォーマットも変更になるなど、本業以外の手間が発生することも負担になります。

■適格請求書発行事業者にならない場合のメリット

適格請求書発行事業者にならないメリットのイメージ

適格請求書発行事業者とならない選択をすることも可能で、その場合は以下のメリットがあります。

①消費税負担が発生しない

現状で消費税の免税事業者であれば、引き続き消費税の負担が発生しません。

②これまで通りの経理処理でOK

インボイスに対応しないのであれば会計ルールが変わらないので、これまで通りの慣れた経理処理を続けることができます。

インボイスに対応する会計ソフトなどを新たに導入する必要もありません。

■適格請求書発行事業者にならない場合のデメリット

適格請求書発行事業者にならないデメリットのイメージ

適格請求書発行事業者にならない場合は以下のデメリットが考えられます。

①これまでの取り引きがなくなる可能性

発注者側は仕入税額控除を使えなくなるので、適格請求書発行事業者ではない相手方とは取引をしない決定をする可能性があります。

受注者側としては取引先に逃げられてしまうことになり、事業の継続に支障をきたす恐れがあります。

②値下げ圧力を受ける可能性

取引先が取引を停止しないとしても、仕入税額控除を使えなくなる分の損失を穴埋めするため、発注の際に値下げを要求する可能性があります。

受注者側は値下げに応じるか、付加価値を高めて値下げ実施を避けられるように配慮するなどの対応を考えなくてはならなくなります。

■まとめ

まとめ

本章では中小企業も対応を求められるインボイス制度について見てきました。

現状で消費税の免税事業者となっている中小事業者は、インボイス制度開始に伴い、これまで通り免税事業者でいるべきか、それとも適格請求書発行事業者となるべきか検討を迫られます。

どちらの選択をするにしても非常に大きな影響を及ぼすことになるので、対応を巡っては専門家に助言を求めるなどして適切な判断を取れるようにしてください。